ストラテジーシートの書き方

先日のペアレントトレーニングの宿題で「ストラテジーシート」というのを渡されました。

 

書き方がさっぱりわからないです。どうしたらよいでしょう…。

 

ストラテジーシートというのは、子どもの行動を変えるための「戦略書」です。行動を分析するのに役立つものなので、ここで書き方をお伝えしましょう。

 

 

 

上の段は「望ましくない行動」の現状を書く

上の段だけ記入されているものと、何も書いていないものを両方もらいました。

 

上の段だけ書いてあるものが、これです。

 

これは記入例の一部ですね。上の段が子どもの行動の「現状」で、それを変えていくための戦略を下の段に記入していきます。

片づけを嫌がっても怒って泣かせたらダメってことですか?

行動を変えるには逆効果だから、別の方法を考えましょう、ということですね。順番に見ていきましょうか。

 

ストラテジーシートを書くときには、まず子どもに「変えてほしい行動」を考えます。この例では「使ったおもちゃの片づけをしないで逃げる」のをやめさせたい、です。これがシートのタイトルになります。

タイトルをつけたら、いよいよシートの中身を記入していきましょう。

 

一番はじめに書き入れるのは、分析のターゲットとする「望ましくない行動」です。この例の場合は「片づけをしないで逃げた」になりますね。「B:行動」のところに書き入れます。

泣かれるといっそうイラっとするんで、やめてほしいんですけれど、「泣いた」は行動じゃないんですか?

「行動」の意味をよくわかってくれていますね。おっしゃるとおり「泣いた」も行動ですし、ときには「泣く」という行動を変えさせたいときもあると思います。ただ、この例では泣くよりも前に、そもそも「片づけないで逃げる」ことをどうにかしたいわけなので、ここは「片づけをしないで、逃げた」にします。

次に、その左側「A.事前」を考えてみます。

 

子どもの望ましくない行動は24時間どんな環境でも起きているわけではなくて、特定の状況や特定のきっかけで起きているはずです。その状況やきっかけを「A.事前」に書きます。

 

この場合は「おもちゃで遊んでいるとき、お母さんに「片づけなさい」と言われた」としましょう。いま楽しく遊んでいる最中に指示された、ということですね。気持ちの準備はあったのかな…。

うちだったら、まだ小さいきょうだいがいっしょに散らかしてしまっていたり、片づけきれないくらいたくさんのおもちゃを出してしまったりしています。よく散らかすのは夕食の前です。そういうのも「A:事前」に書くのですか?

すばらしいです! 望ましくない行動がどんな場面で起きているのか、詳しくわかったほうがよい戦略を立てられます。ぜひ細かく具体的に書いてください。

 

続いて、右側に移って「C:結果」です。子どもが望ましくない行動をとった後、子どもにとってどんな結果につながっているのか、を書きます。この場合は「怒られて、泣きだした」になってますが、大事なのはその次に書いてあることです。

怒られて泣くことで、

 

「泣いたら片づけなくて済む」

「注目してもらえる」

 

という結果を得ている、と考えられます。

 

どちらも子どもにとっては「よいこと」なので、このままでは「片づけずに逃げ出す」行動が無くなるどころか、ますます強まってしまうかもしれません。

そんなふうに子どもが計算しているようには思えないのですが……。

計算はしていないかもしれませんね。でも、ねらっているかどうかには関係なく、偶然にでもうまくいった経験があると、その行動をまた繰り返してしまいやすくなります。これを「強化」と言います。

どんな経験が望ましくない行動を「強化」してしまうのでしょう?

人が「行動」で得られるものは、たった4種類しかないと言われています。

  1. 欲しいものや活動が得られる(要求)
  2. 好きな感覚が得られる(感覚)
  3. 嫌なことが避けられる(逃避)
  4. 注目を得られる(注目獲得)

先ほどの「泣いてしまう」例だと、3と4が該当しますね。嫌なことが避けられたり、注目を得られたりするから、逃げる行動や泣く行動が「強化」されてしまっているわけです。

 

そう言われても、逃げ出されたら怒らないわけにはいかなくないですか……。いったいどうしたらいいんでしょう?

では、戦略を立ててみましょう。ポイントになるのは行動の「前」と「後」です。下の段に記入していきます。先に完成図をお見せしておきますね。

 

下の段で「どんなふうに行動を変えたいか」を考える

下の段で最初に書くのは、真ん中「望ましい行動」です。どんなふうに子どもの行動を変えたいか、を書きます。

 

 

 

もちろん「何も文句を言わずに片づける」がよいです。

でしょうね(笑)。ただ、何事もいきなり全部できるようにはなりませんから、目標をきざんでいくことが大事です。「スモールステップ」とも言います。

 

まずは、片づけるものがあんまりたくさんだと子どもがやる気をなくしてしまうことも考慮して「決めておいた数のおもちゃを片づけたらよい」ことにしたり、「おかあさんといっしょに片づけたらよい」ことにしてみましょう。

じれったい気もしますが、頑張ってみます。これだけ目標を下げたら、できるんじゃないかなあ……。

子どもに期待をかけられるとよいですよね。

 

約束を決めておいたり、子どもが良い行動をとりやすい環境を整えたりすると、いっそう望ましい行動につながりやすくなります。そこで次は左側「事前の対応の工夫」に移りましょう。

「今日はママといっしょに片づけるよ」とか「今日はこれだけ片づけたらいいよ」とかあらかじめ約束しておく……、でどうでしょう。

すばらしい! 「今日の片づけはしんどくないかも」と思いながら遊べますよね。

 

他にもできる工夫がいくつかありそうです。

たとえば、気持ちの切り替えが苦手な子どもは急に「片づけなさい」と言われても対応しにくいので早めから予告をしておくのが大切になります。言葉で「6時」と言っても記憶に残りにくいので、書いて伝えるのもよいですね。

 

片づけることを約束したおもちゃを絵に描いておくとか、片づけに対して「頑張りシール」のようなポイントをつけるとかも考えられます。書き入れてみましょうか。

少しめんどくさいです…。言葉で約束するだけではダメなんでしょうか…?

大人でもどうしても守ってほしいことは口約束じゃなくて「契約書」を交わすわけですから、子どもにも「目で見てわかりやすく形に残るもの」はあったほうがいいと思いますよ。「言った」「聞いてない」というケンカも避けられますし。

 

うまくいくと気持ちいいので、ぜひ「事前の対応の工夫」を考えてみてください。

やってみます…。ここまで丁寧にはできないと思うけど。

できる範囲でよいのですよ。無理は結局、長続きしませんから。

 

ところで、まだ終わりではなく、ペアトレの真骨頂「ほめる」を忘れてはいけません。子どもが「望ましい行動」、ここでは片づけてくれたときにどんなふうに褒めようか、も考えておきましょう。それが下段の右側です。

ここでは「自分で片づけられたね」と頭をなでる、にしてみました。漠然とした「えらい」「すごい」ではなくて、具体的な行動をほめている、のがポイントです。

 

このシートには書けていませんが、もし「頑張りシール」を用意していたら「頑張りシールを台紙に貼る」もここに記入ですね。

 

「ほめる」なら私にもできそう。

この例では「ほめる」で終わってますが、望ましい行動ができた後に楽しい遊びが待っているとか、好きなおやつが待っているとかでもよいのです。今度は、望ましい行動を「強化」できたらよいのですから。

 

子どもの好きなもの・喜ぶことをうまく使っていきましょう。ただ、「ほめる」は行動を強化するだけでなく、親子関係もよくしてくれるものなので、欠かしてほしくはないです。

これで戦略書の完成ですね。

念のため、うまくいかなかったときのことも考えておきましょう。シートの下段右下を見てください。

事前事後の環境の工夫をしても、やっぱり片づけないで逃げてしまったら、どうするか、です。目標設定が高すぎたのか、事前の工夫が足りなかったのか、事前にしたはずの約束がちゃんと伝わっていなかったのか、などいろいろ考えられます。

 

じっくり考えた上で戦略を立てていたら、うまくいかないと実際は途方に暮れるばかりかもしれません。もし別のアイディアが浮かぶようなら、書いてみてください。思い浮かばなければ、空欄でもかまいません。

これだけ準備してうまくいかなかったら、また怒ってしまいそうな気もしますね…。でも、うまくいかないかも、と思っておけたほうが、失敗したときのショックは少ない気がします。

 

これで説明は終わりですよね。前回に渡された、何も書かれていないストラテジーシートに記入するのが「宿題」ということでよいですか?

はい、その通りです。いま家庭で困っている子どもの「望ましくない行動」を「望ましい行動」に変えるためのストラテジーシートを書いてみてください。できれば、2枚。無理なら1枚でも。

 

ここまで説明してきた順序で記入していくのがよいと思います。

 

ものすごく難しそうな気がします……。

「事前」と「事後」で考える習慣をつけるのが大事なので、うまく書ける必要はないですよ。このシートを完璧に書けたお母さんにはまだ会えたことがありません。事業所の職員に記入させてもほとんど正しく書けないはずです。

 

どうぞ無理なく書ける範囲で書いてみてください。

 

終わり。

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