ソーシャルディスタンスから学ぼう(学童保育編)

代表コラム

新年度になり、1か月あまりが経ちました。

進級、進学。子どもたちの環境が大きく変わる時期です。私たちが関わる子どもの中には新しい環境を苦手とする子が少なくありません。保育所・幼稚園から小学校への就学なんて、どんな子どもにとっても不安がいっぱいです。自分の心の中に「安心」が蓄えられていない子どもや自分に自信のない子どもにとっては、毎日が消耗戦になりえます。ゴールデンウィークで少し充電できているとよいのですが。

ところで、昨年度から子どもたちをめぐる環境はずいぶん特別なものになっています。理由はもちろん新型コロナウィルス。子どもが集まる場所は、学校であれどこであれ、感染対策を強く求められています。三密を避けること。ソーシャルディスタンス。感染リスクを下げるために最良の方法は人が動かず、交わらないことですから、大人はみんな子どもどうしの接触する機会を可能な範囲で減らそうとします(大人どうしでも同じですね)。

この状況はきっと子どもたちの育ちに影響を及ぼすでしょう。人は人と関わることで発達するわけですから、当然です。このように書くと、子どもにとって大切なことを学ぶ機会が失われているように思われるでしょうか。それも間違いではありません。でも、人と人が関わることで生じるトラブルや失敗体験だってたくさんあります。無条件に子どもどうしがたくさん交わるのが良いとも言えないのです。

昨年度と今年度、いくつかの学童保育所(放課後児童クラブ)にお邪魔させてもらいました。目的は、特性の強い子どもたちが過ごしやすい環境やプログラムになっているかどうかを確認することであったのですが、少し興味深い様子がうかがえます。限られた観測範囲とはいえ、子どもたちがとても穏やかなのです。以前の学童保育所よりも今のほうが過ごしやすい子どもたちは確実に多いでしょう。

観察していると、こんなことがわかってきました。

  • 長机の両端に子どもを座らせる(中央は空けておく)ことに決めているので、子どもどうしが近づかず、あまり話さない
  • そのため、他の子どもの動きが視界に入りにくく、宿題や読書への集中が途切れにくく、途切れても他児にちょっかいをかけにくい
  • おやつと読書、宿題の場所をしっかり分けているので、場所と活動が結びつきやすく、子どもの動きが秩序立っている
  • 子どもが対面になる玩具やゲームを出さないので、屋内の遊びの中でのトラブルが起こらない

「遊び」としては物足りないだろうとは思います(外遊びの時間は自由度が高いことは申し添えておきます)。読書が多くて、文字を読むのが苦手な子には退屈でしょうが、これは物事のわかり方や感じ方の特性の強い子どもにとって「失敗しにくい」環境です。先生の一斉指示を聞けておらずに他の子どもと違う行動をとってしまったり、友だちと遊んでいて負けることに我慢できずにケンカになったりしません。

ここから言える「多くの子どもたちが穏やかに過ごすために大事なこと」を、いくつかまとめてみましょう。

  1. 施設の物理的な広さや設備。子どもどうしの距離がとれるだけで、刺激が少なくなり、穏やかに過ごしやすくなります。
  2. 環境への適切な意味づけ。「ここはおやつ」「ここは宿題」などと空間を区切ったり、「おやつの後は宿題」「宿題の後は読書」など時間を区切ったりすることで、子ども集団が秩序だって動くようになり、ひとりひとりが行動する手がかりにもなります。
  3. ひとりで過ごすことの保障。人との関わりに苦手さのある子どもが「友だちと遊ぶ」には適切な遊びの導入や大人の介在ばかりでなく「ひとりで遊んでよい」と認めてあげられるとよいです。

これらは、家庭でも学校でもその他の場所でも同じことが言えます。子どもの行動を変える近道は、注意や叱責ではなく、子どもへの特別なトレーニングでもありません。安心ができて、不要な刺激がなく、わかりやすい環境をいたるところに準備できれば、自ずと子どもは安定します。コロナ禍を機会として、「ディスタンス」の良さを今後にも活かしていきたいですね。

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